Voigtlander NOKTON classic 35mm F1.4 II MC VM
…weil das Objektiv so gut ist(訳:なぜならレンズがとてもいいから)オーストリアのウィーンで創業した、世界最古の光学機器メーカーのひとつフォクトレンダー社の有名なキャッチフレーズです。今なおその血は脈々と受け継がれ、日本のコシナがフォクトレンダーブランドの製品を作り続けています。 今回はそのフォクトレンダーブランドから発売された、NOKTON Classic 35mm/f1.4 II MC VMとNOKTON Classic 35mm/f1.4 II SC VMの二本立てでお届けいたします。「Classic」の名を冠した本シリーズ、往年のクラシックレンズの構成をオマージュし、敢えて収差を残存させつつも現代の光学ガラスを使用することで絞りを開ければ柔らかく優しく滲み、絞りを絞る事でシャープな像が楽しめる二面性を持ち合わせたシリーズとなっています。それではご覧いただきましょう。
今回は絞りを開ける事がついつい楽しくなってしまい開放の写真ばかりになってしまいましたので、冒頭の写真と打って変わってまずは絞った写真で先に一度身を引き締めておくことにします。やや線は太めな印象を受けますが描き込みは細やかで、絞ると十二分にシャープな写真が得られます。M10の絵作りのおかげもあるとは思うのですが、マルチコートも相まってか変に色が転んだりすることもなく色再現もすっきりとしています。銘に「II」と入っている通り、本レンズは2世代目。先代はもう少し暖色傾向にあった様にも感じられるのでニュートラルな方向に寄せてきたのでしょうか。
間に窓ガラスを挟み奥のカップにピントを置き、ピント面とその前後の分離を見てみました。昨今の高性能レンズであればハッキリと分離が感じられ、あわよくば窓ガラスのヨゴレまでもが見えてしまいそうなところですが、絞りを開けると芯は感じつつもやはり柔らかく、滲む事で一枚ヴェールを纏わせた様な雰囲気になります。
レンズ構成は6群8枚と典型的なダブルガウスタイプとなりますので、どのレンズをオマージュして作られたかはライカファンの皆様であれば推して知るべしといったところでしょうか。ハイライトの滲み方にどことなく雰囲気も似たものを感じ取れますね。前後のボケ味を見てみたくて収めた1枚ですが、どちらかといえば前ボケの美しさに目を惹かれます。後ボケに混ざる玉ボケを見ると先代よりも少し輪郭がハッキリとしているようにも感じられますので、II型になり球面収差の補正バランス調整も行われているのでしょう。
画を落ち着かせつつ、少し深度も欲しかったのでやや絞り気味な状態ですが、この辺りの絞り値でも十分な解像感を得られます。35mmという事で特にスナップで活躍する画角でもあり、やや絞るというシーンは往々にあると考えられますので、絞り値による描写の変化を覚えておくと良さそうです。現代レンズでありながらもこの大きく変わる描写の二面性を比較的リーズナブルに楽しめるのが最大の特徴でしょう。
Voigtlander NOKTON classic 35mm F1.4 II SC VM
まるでそれはタイムマシンの様だった
続いてNOKTON Classic 35mm F1.4 II SC VMで撮影した写真をお届けします。 ボディにはLeica M Monochrom(Typ246)を使用しているため、ベース感度がISO320からのスタートとなっています。先程までのマルチコート(MC)と打って変わってよりクラシカルな描写が楽しめるシングルコート(SC)、特に逆光時での描写には大きく影響がでる模様…その辺りもテストできればと思います。
そして早速ですが、盛大なフレアとゴーストがお出迎え。モノクロだからというのもあるとは思うのですが、まるで真夏に白昼夢を見ている様な印象の仕上がりに。効果的に使うのは難しいですが、このレンズに振り回される感覚もなんだか懐かしく楽しいものです。
絞った画もご紹介いたしましょう。MCの時の様にもちろんシャープな画は得られるのですが、どことなくSCの方が線が細くしなやかな印象を受けます。フレアが取り払われ、コントラストの高い写真が出てくるのを見てしまうと本当に同じレンズなのかと思ってしまう程に、絞りによって大きく描写が変化します。
格子から漏れた光が交差していたのが印象的でつい写真に収めてしまいました。色彩が失われた世界で光が形作るものにフォーカスして、明暗を手で掬うように拾い上げる。モノクロ撮影における醍醐味だなと感じます。 樽型の歪みを少し感じますが、寧ろレンズのサイズを考えればよく補正されていると思います。
日も暮れて辺りは境内の照明のみ、あまり光が回っていないシーンでしたがF1.4の明るさに支えられつつの1枚。絞りを開けた状態でのコントラスト低下はマイナスに捉えられがちですが、モノクロ写真ではかえって都合がよくシャドウが程よく浮くことで中間階調が増えてより豊かなトーンを楽しむ事ができます。
旧き良きを、”今”ここに。
今回は描写に振り回されつつも癖を掴み、それに抗ったり流されたりしながら思い思いに写真を撮っていく楽しみを思い出させてくれました。高性能な現代レンズが様々なメーカーから投入される中で、敢えてクラシカルな描写を再現している本レンズ。2種類の異なるコーティングと嬉しくも悩ましいラインナップ展開に、昨今ではミラーレス一眼の登場でマウントアダプターを経由させる事で他のマウントでも楽しめるなど、更に引っ張りだこなレンズになっています。お求めやすい価格でありながら、絞りやフォーカシングノブの操作感も滑らかで心地が良く、コシナの職人魂が光ります。初めての一本にも、懐かしい一本にもオススメなレンズです。 なぜなら、レンズがとてもいいから。
Photo by MAP CAMERA Staff