FUJIFILM GFX インタビュー【Part 1】
前回の『X-Pro2インタビュー』では、開発秘話だけでなく、Xシリーズの色の秘密や、フルサイズ化の可能性など、非常に内容の濃い記事となり、各所から多くの反響の声をいただきました。今回はその第二弾と言うべく、2月末に発売となった注目の中判デジタルカメラ『GFX 50S』のインタビューをお届けします。お答えいただくのは、『X-Pro2インタビュー』でも解説していただいた、富士フイルム株式会社・上野 隆氏。Xシリーズに続き『GFX 50S』の商品企画を担当されたということで、カタログには載っていない深い話まで伺ってきました。GFX50Sは、なぜX-Trans CMOSを採用しなかったのか、新たな中判デジタル機の可能性など、今回も注目度の高い内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。 |
多くのカメラユーザーから支持されている『Xシリーズ』とは別に、『GFX50S』という中判デジタルカメラが発売されました。今回も『X-Pro2インタビュー』と同じく、商品企画を担当された上野 隆氏に、このカメラについて詳しくお話を伺わせていただきます。よろしくお願いします。 フジフイルムと言えば昔からプロ・ハイアマチュア向けに様々な中判フィルムカメラを作ってきたメーカーであり、今でもGF670という中判フィルムカメラをラインナップしている国内唯一のメーカーだと思います。そんな中判カメラを知り尽くしたフジフイルムが、ミラーレス中判デジタルカメラという新たな商品を開発するにあたって最もこだわった点、また、デジタルバックを含む他の中判デジタル機と「GFXはここが違う」と言えるようなポイントのご説明をお願いしてもよろしいでしょうか。
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『GFX 50S』を商品化する上で最もこだわった点は、『X-Pro2インタビュー』の話と一部被ってしまうのですが、やはり画質ですね。画質はプロセッサーとセンサー、そしてレンズの3つの要素で成り立っていますから、その3つを妥協なく作るというところに引き続きこだわりました。
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まず1つ目のプロセッサーに関してですが、開発当初から『X-Pro2』と同じ「X-Processor Pro」というハイパフォーマンスなプロセッサーを使用する予定でしたので、その点は早い段階でクリアされていました。
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2つ目はセンサーです。 43.8×32.9(mm)の51Mという大型センサーを使用していますが、これはペンタックス、ハッセルブラッド、フェーズワンなど他社の中判デジタル機で使用しているものとベースは同じものになります。
ただ、我々の『GFX』は一眼レフではなくミラーレスなので、これら他社製のカメラと比べてフランジバック長を半分以下に出来、結果レンズの光学設計も大きく変わってきます。そうなると、最高画質実現のためには必然的にセンサーをカスタマイズする必要があります。具体的には、センサー前面に装備しているマイクロレンズを独自設計にしています。 あとは感度ですね、この手のカメラ(中判デジタル機)というのは、ハイアマチュアがフィールドで使うだけでなく、プロカメラマンもメインユーザーになりますので、スタジオなどで使う頻度も多くなります。写真館もそうですし、コマーシャルスタジオなんかもそうです。そうなってくるとカメラと大型ストロボとの連携が重視されてきます。これはXシリーズにも要望があるのですが、『低ISO感度設定時の画質のさらなる改善』というのが課題の一つでした。 『高感度画質』というのは一般的にカメラ雑誌などでも取り上げられますけど、実は低感度でいい画質を作るというのはデジタルカメラにとって意外と難しいことなんですよ。特にダイナミックレンジ確保においては。だけどこのカメラで低感度撮影はおそらく日常茶飯事。なので、『GFX』で我々が目指したのはISO100の設定で最高の画質を実現しつつ、高感度も譲らないこと。それも主にセンサーのカスタマイズと信号処理で対応しました。 |
3つ目はレンズです。
この『GFレンズ』は解像力という点で51Mのセンサー性能を100%引き出すことができます。そして、これから先どうなるか確かな事はわかりませんが、おそらくこのサイズのセンサーの画素数というのはまだ上げられるポテンシャルがあるだろうと想定しています。そうなった時、「あのレンズは設計が古いから解像力不足だ」というのでは1本20万円も30万円もする高いレンズを買っていただいたお客様に申し訳ないじゃないですか。 そのため、仮にですが、将来51Mを超えるセンサーが搭載されても十分解像するレンズにしようという考えのもとで『GFレンズ』の光学系は設計されています。その手段の一例としては、色収差を徹底的に低減させるということに注力しました。 |
他に『GFX』が他社中判デジタルカメラと違う点ですが、やはりミラーレス化したことで、一眼レフタイプとはサイズ感、重量など圧倒的に違います。 同じミラーレス中判カメラとなるとハッセルブラッドのX1Dがあると思うのですが、あちらはレンズシャッターを搭載して、非常にハッセルさんらしい物作りの考え方が感じられますよね。デザインも少し近未来的な雰囲気がありますし。 それに対して『GFX』は“写真家の道具”に徹しています。どこから見てもカメラらしいデザインと操作性を優先しています。フォーカルプレーンシャッターを採用していますから、『フォーカルプレーンシャッター搭載のミラーレス中判カメラ』となると『GFX』が世界で唯一の存在になります。このシャッター方式の選択というのも、実は結構悩んだ部分ですね。 というのも、『GFX』を開発している時に国内外の写真家に定期的にヒアリングを行っているのですが、特に海外の写真家は、「リーフシャッター(レンズシャッター)は必ず入れてくれ」と言うんですね。このリクエストは我々もビックリするくらい多くて、話を始めて二言目には「リーフシャッター(レンズシャッター)が欲しい」と言うんです。 それだけハッセルブラッドやフェーズワンがプロコマーシャル分野で市民権を得ているんだなと実感したのですが、その理由の一つが、屋外撮影でも大型ストロボを使った高速日中シンクロが海外では非常に多いからだ、ということも分かってきました。一方、日本の写真家に聞くと、「たまにやるけど、フラッシュは基本的にスタジオが多いし、シンクロ速度は1/125秒(シャッタースピード)もあれば十分じゃないの?それよりも、屋外で開放のボケ味を活かすために高速シャッターが使える方が重要でしょう?」と言われます。 そこが我々としては悩みの種でした。これらの意見を全て汲み取ると、“レンズシャッターが入ったレンズ”と“入ってないレンズ”の2種類を用意しなくてはならなくなりますが、それだと開発負荷が大きく現実的ではありません。将来レンズシャッターを搭載可能な光学設計で作っておいて、先ずはフォーカルプレーンシャッターで対応する、という案も無くはないのですが、そうすると無駄な空間を空けたままレンズを作らなくてはならなくなり、画質にもサイズにも悪影響がある。本当に難しい判断が必要でした。 でも最終的に『GFX』にはフォーカルプレーンシャッターを採用しました。 我々はこの『GFX』をフルサイズ一眼レフユーザーにこそ使って欲しいと思っていますし、既存のXシリーズ、特にX−T2と組み合わせて使用することで、全ての被写体に対応出来るシステムが完成すると考えています。であれば、カメラの動作は出来るだけ同じ方がいいでしょう。 さらに言えば、ミラーレス最大の特徴の一つとなっているマウントアダプターによる非純正レンズの使用が事実上出来なくなりますよね。ボディからシャッターが無くなっちゃうわけですから。これもカメラの魅力を考える上でマイナスになるだろうと考えました。 じゃあ、フラッシュ全速同調のニーズは完全に無視するのか?もちろんそれも出来ません。そこで考えたのが、以前共同開発を行ったハッセルブラッドのHシステムの活用です。
当社ブランドだとGX645AFというフィルムカメラでしたが、それ用にレンズシャッター搭載のHマウント・フジノンレンズを作っていましたので、あれを動かせればいいのでは?と思った訳です。 ただ、発案当初からAFは動かないだろうという事は分かっていました。なぜならHシステムは一眼レフで、別体の位相差AFセンサーで動くレンズです。一方『GFX』はコントラストAFですから、制御方法が全然違うんです。そのレンズを今からコントラストAF制御に対応させるのは非常に難しいだろうと。 しかし、AFさえ諦めれば、それ以外のレンズシャッターを動かしたり、レンズと通信をしてExifデータを取得したり、必要であれば各種レンズの補正データなどを『GFX』へフィードバックして、カメラ内で補正するなど、まるで純正のマニュアルレンズのように使う事が出来ると思い当たりました。ならばHシステムのアダプターは自社で作ろうという判断になったのです。 それを用意すれば、MFにはなりますが、『GFX』はデビュー当初からGX645AF用のレンズが9本も使えます。さらにハッセルさんが現在販売しているHシステム用のレンズ、これも基本構造は同じなので、一応動作確認をして使えることが分かっています。以上のことから、既に世の中には『GFX』で使用できるレンズが純正を含め十数本存在しており、その一部にはレンズシャッターが付いているのですから、高速シャッターによる絞り開放撮影から高速フラッシュシンクロ撮影まで、あらゆるテクニックに対応出来るシステムが完成するという訳です。それが『GFX』にとってベストな解だと判断したからこそ、我々はフォーカルプレーンシャッターを選びました。
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最新のHシステムのレンズなら、1/2000秒という高速のレンズシャッターを使うことができますよね。
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そうですね。でも、もっと言うと、カメラ業界のニュースなどでご存知の方も多いかもしれませんが、シャッターの世界も徐々に変わってきていて、特に電子シャッターが急速に進化しています。将来的にはグローバルシャッターと呼ばれるセンサー上で露光の時間差が起きない一括読み出しの出来るシャッターが普及すると言われていますね。それはすなわち、メカニカルシャッター自体が要らなくなる可能性があるということです。 そうなったら、フラッシュの同調スピードは1/2000秒どころか、1/32000秒シンクロも可能になるので、大袈裟に言えば、写真の世界が変わるような撮り方が出てくるかもしれません。そういうのを見据えると、我々としては今からレンズシャッター搭載レンズを作るのはあまり得策ではないと判断した、というのも事実です。
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