世に「銘玉」と呼ばれるレンズは数あれど、自分の理想に合致する一本に出会う機会は一生の中でも稀有な事でしょう。ライカの歴史の中で脈々と磨かれてきた『Leica Noctilux M50mm F0.95 ASPH.』は、F0.95という抜きんでた光量を携えた魔法のようなレンズ。今回は『SIGMA fp』に『SHOTEN マウントアダプター LM-SL M EX』を使用して装着。その魅力に迫って参りました。
長く続いた梅雨が明けた途端、降り注ぐ日光に攻め立てられるような日々に早変わりしました。 日傘の放つまぶしさに目を奪われ即座にシャッターを切りましたが、和装が浮かび上がるようなアウトフォーカス部のボケ味がたまりません。
少し上を向くような角度でレンズを覗くと、強気な太陽に導かれたかのようにゴーストが現れました。本来ならば敬遠されるものですが、この時は白い飾り柵を包むような光の環が美しく感じ、表現として活かしてみようと思いそのまま撮ってみました。最新鋭のコーティングが施されたレンズでは出せない「味」の一つと考えると感慨深いものです。
『Leica Noctilux M50mm F0.95 ASPH.』の柔らかい描写が一番映える場所はどこかと思考を巡らせた時、やはり幾星霜の時代を過ごしてきた街ならば、このレンズの包容力でより一層風情をまとった写真になるのではと行き付きました。周辺減光が被写体を引き締め、ボケとの相乗効果でこの場の温度すらも感じられるようです。『SIGMA fp』が彩る赤がとても気に入りました。
合焦にどうしてもある程度の時間が掛かるMFでは、刹那のシャッターチャンスを逃がす可能性が付きまといます。しかし、己の手でリングを回しピントを狙うこの時間、じっくり観察している事で被写体の良い部分がより見えてきます。ファインダー越しに見つめ合ったのは5分程度でしたが、猫の瞳の深い部分に心奪われて悠久の時間が経ったかの様に感じました。
『fp』は撮影画像のアスペクト比のパターンが豊富です。今までの写真は「3:2」のものをお送りしましたが、ここからはより印象的な「21:9」で撮ったものをご覧いただきます。「シネマスコープ」という一般的に映画作品などで使われる「2.35:1」の比率に近い事で、このような日常を切り取っただけでもストーリー性を感じずにはいられません。
『Leica Noctilux M50mm F0.95 ASPH.』の絞り開放の描写は幻想的な美しさですが、絞っていった時の解像感ももちろん秀逸です。なにより、この日は久しぶりに覗いた雲一つない青空がなんとも嬉しく、緻密な建造物との対比が広大さをより強調する一枚になりました。
手軽に簡単に良い写真が撮れる、段々とそんな時代がやって来ているような気がします。 しかし『Leica Noctilux M50mm F0.95 ASPH.』と向き合ったことで、どんな写真が撮りたいかを考えて、機材を選び、場所に赴き、空気を感じ、画角を厳選する、という写真を撮ることの原初の工夫や楽しみを思い出させてくれました。そして、『SIGMA fp』がピントの部分拡大やピーキングなど機能面で支えてくれるおかげでストレスなく撮影に没入出来ます。レンズの魅力とボディの可能性を再確認できた一日になりました。
Photo by MAP CAMERA Staff