以前、ニコンFマウントレンズをM型ライカの距離計連動に対応させるアダプター『SHOTEN マウントアダプター ニコンFレンズ/ライカMボディ用 距離計連動型 ヘリコイド付き NF-LM R50』を紹介させていただきました。距離計連動させるため使用可能なレンズは50mmに限定されていたため「Ai-S Nikkor 50mm F1.2」を使用しましたが、個人的にどうしても試してみたいレンズがあったので、再度撮影に出かけてきました。
そのレンズは『Ai Nikkor 58mm F1.2 Noct』。1977年に登場したノクトの名を持つ大口径レンズで、サジタルコマフレアと呼ばれる夜景撮影時に見られやすい収差の補正に注力した意欲作です。
熟練した技術が必要な研磨による非球面レンズを採用し、通常の解像力試験に加えて、専用の検査装置を使っての収差測定/フレア管理を行っていたという徹底ぶりと希少性から今もなお、高値で取引されています。今では前回使用した「Ai-S Nikkor 50mm F1.2」の10倍近い価値を持つレンズの実力をぜひご覧ください。(今回使用したレンズは、1982年にAi-S化された改良モデルですが光学設計に差はありません)
ホログラムシートで作られらウサギのオブジェ。ちょうど鼻先辺りがキラキラと光っていました。ノクトレンズが得意とるす夜景撮影とは全く逆のシチュエーションでしたが、輝きを綺麗に捉えたのはさすがはノクトレンズと言ったところでしょうか。
明るい日差しが差し込む窓際でのカット。白い窓枠の周辺に薄いベールをかけたかのようなフレアが生じましたが、全体的には色のりも良く細部までしっかり描いているのが分かります。「Ai-S Nikkor 50mm F1.2」を使用した時はもっと盛大にフレアが出てたことを考えるととてもよく抑えられています。
シャンデリアの質感描写も見事ですが、それ以上に照明部のエッジがしっかり出ていることに驚きます。サジタルコマフレアを抑えるとはこう言うことなのかとよく分かりました。
まもなく誕生から半世紀を迎えようとしているオールドレンズ。強い日差しの下ではゴーストも発生しましたが描写はしっかりしています。そして周辺減光もよく抑えられています。同じF1.2の「Ai-S Nikkor 50mm F1.2」の周辺が結構沈んでいたのを思い出すとこれは驚きです。
筆の細い毛までしっかり描いています。筆先の柔らかさが手に取るように分かります。
古い民家の廊下奥。部屋の中までは届かない小さな隙間灯りが生むグラデーションを上手に描いてくれました。Nocturne(夜想曲)からその名をとったといわれるNoctレンズだけあって暗い場所での光の捉え方がとても上手です。
昔懐かしい路地裏の風景もオールドレンズらしい柔らかい描写で描いてくれました。ザワっとしたボケが画に古い雰囲気を加えてくれます。
足元に咲いていたハナニラに開放F1.2でギリギリまで寄ってみると花びらの際に薄いフレアが生じました。これはアダプターのヘリコイド機能とレンズ自体のピントリングの両方を駆使したレンズの限界を超えた近接撮影だったためと思われます。それでいてこの薄いフレアですから改めてこのレンズのフレア管理がしっかりしてるというのが分かりました。
影で潰れてしまうかと心配した軒下の七福神の彫刻も階調豊かな描写でしっかり描いてくれました。
既に、同じカメラ、同じアダプターで本レンズの弟分とも言える「Ai-S Nikkor 50mm F1.2」紹介させていただいていましたので、レンズ寄りのレビューになりましたが、操作感などは何の不便もなく使用できました。距離計連動可能なレンズは50mmと限定されていますが、被写体まで3mほど距離があれば58mmのレンズでも光学ファインダーで合わせたピントがズレている感覚はありません。念の為「ビゾフレックス2」を用意しましたが、近接時やピント面が見づらい場合の補助的な使用にとどまりましたので、むしろ使いやすい組み合わせだったと言えます。余談ですが過去に一度「Leica ノクティルックス M50mm F1.2 ASPH. ブラックアルマイト」を試させてもらった時は「ビゾフレックス2」を駆使してもほとんどピントを合わせられなかった記憶があります。そのことからも本レンズの使いやすさが印象に残ったのかもしれません。
使いやすさだけで言ったら「Nikon D850」などのFマウントカメラを使うのが最適解であることは間違いありませんが、アダプターを介して他のカメラを使うことで、より高画素の画が楽しめたり、より近接撮影が可能になったりとメリットも多々あります。何よりカメラメーカー毎に異なる色の出方の違いも楽しめます。今回は「Leica M11」を使用しましたが、他のミラーレスカメラでもぜひ使っていただきたいレンズです。お値段は少々高めですが、その後「Nikon NIKKOR Z 58mm F0.95 S Noct」等にその意志が引き継がれる高い思想から生まれたレンズと考えればその魅力はご理解いだだけると思います。
『Leica M11』のレンジファインダーで合わせるFマウントレンズ『Nikon Ai-S Nikkor 50mm F1.2』