多くの写真家達に「タムキュー」の愛称で呼ばれてきたロングセラーレンズ。90mmマクロレンズ『TAMRON 90mm F2.8 Di III MACRO VXD』がいよいよ発売されました。当時「特殊用途向けのレンズ」としてマクロレンズは使用用途の少ないレンズとされていました。そんな中で「中望遠としてもマクロとしても汎用性のある、使い勝手の良いレンズ」として設計、発売された「SP 90mm F2.5 52BB」は柔らかでシャープな描写の美しさから「中望遠マクロだったらタムロン」という評価を写真家達にしてもらえるようになったといいます。その歴史の始まりである1979年から現在に至るまでの間、等倍撮影、AF化などフィルムからデジタルへの移行後もいくつもの進化を遂げ、ついに最新技術を併せ持つミラーレスモデル『TAMRON 90mm F2.8 Di III MACRO VXD』が誕生したのです。
カメラのことをよく分かっていない頃からマクロレンズだったら「タムキュー」だよ、という声は当たり前にように聞こえてきました。タムキューで思い浮かべるモデルはそれぞれかと思いますが私は「SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1」の金帯と青文字が印象に強く残っています。
AF/MFの切り替えの仕組みが分からずにAFが効きません!なんて言っていたことも懐かしい思い出。
「ポートレートマクロ」としても評価が高く、タムロンを代表するレンズと言って間違いない一本です。4枚の特殊硝材LDを含めた12群15枚のレンズ構成とBBAR-G2コーティング、タムロン初の12枚羽根の円形絞りによる開放から2段絞っても真円に近いボケが可能になった『TAMRON 90mm F2.8 Di III MACRO VXD』。今回ソニーEマウント用とニコンZマウント用が発売。ニコンZマウントでは「Z8」と組み合わせて撮影してきました。ソニーEマウント『TAMRON 90mm F2.8 Di III MACRO VXD E-Mount』も紹介していますので併せてご覧ください。
さていきなりですがF16まで絞って撮影したカットをご覧ください。一言で言えば「写りすぎて楽しすぎて」です。この花を撮ったカットだけで数枚紹介したいくらいです。最短撮影距離ではF8やF11でも葉先がボケてしまうくらいだったので絞りこんでの撮影です。ニコンはマイクロ(マクロ)レンズでは実効絞りを表示するようになっていますがタムロンのレンズも同じようなのでExifのデータではF25表記になりました。
このカットも実際には開放絞りでの撮影です。ガラス越しでの撮影でしたがピント面の解像力はとても高く、カメレオンの鱗や口元など生々しい描写です。
ガラスコップと木製のテーブルの質感、カーテン越しの光と影の強弱と立体感。これが開放絞りで撮れるのですから驚きです。この画を思ったとおりに撮りたい!という要求にしっかり応えてくれるレンズでした。
固形のバターがパンの熱で溶けていくこの瞬間はいつ見ても食の絶景ポイントだと思っていて、その美しさをどう撮ればいいのかというのは人類の永遠の課題です。いい具合に焼けたパンの硬さとのギャップに食欲と撮影欲が刺激されます。
水滴がついているわけでもないのに丸ボケが出ているのが不思議でした。葉先がクネっと曲がったところに陽が当たって、それが丸ボケを作っていたということに気づいたのは帰ってモニターで確認してからです。少し手前に引いただけで前ボケが極端に小さくなってしまったので前と後ろの丸ボケがしっかり写る位置を探して撮影しました。
この少し突っ張ったような張りや皺の描写も実に丁寧です。赤の発色も深みがあって素晴らしい。ちらっと見えるパイプ脚と肘掛けの質感もしっかり描き分けられているなぁと感じました。
今までは光が回っていた環境での撮影だったので、雨が降ったりやんだりの曇天時のカットです。瞳にハイライトが入らない暗さだったので睫毛にピントを合わせてみました。多少悪い条件下でもこれだけしっかり写ってくれるのは非常にありがたい頭から首にかけてボケていますが、ボケも自然で品がある描写でとても好感が持てます。
今度は絞って毛並みをどれだけ解像してくれるのか撮ってみました。ものすごい解像感はもちろん、毛並みの質感がしっかりと伝わる描写です。レンズに手振れ補正機構は入っていませんが、軽量であることやボディ内手振れ補正だけで1/40くらいでも満足に撮影を行うことが出来ました。
強い西日が射す方に向かって撮影しました。BBAR-G2コーティングのおかげでフレアやゴーストに悩まされることはほぼありません。今回撮影しながらキレイなボケ味に何度も魅了されました。
継承と開拓
歴代マクロレンズの思想を継承しつつ、タムロン初の12枚羽根など描写力や光学性能を追求した『TAMRON 90mm F2.8 Di III MACRO VXD』。初代登場から45周年を迎えた「タムキュー」はその節目を飾るにふさわしい進化を遂げ私たちのもとに帰ってきました。「帰ってきました」なんてまるで自分のものかのように喋ってしまいましたが、それくらい親しみを感じているレンズなのだなと実感しました。マクロレンズなら「タムキュー」。またそう言いながらマクロ撮影にチャレンジしたり、楽しめる時がきたことを嬉しく思います。今まで使ってきた方はもちろん、初めて使う方にもぜひ使っていただきたい一本です。悠久のタムキュー、今その歴史に触れいつかの折にまた昔話に花を咲かせましょう。
Photo by MAP CAMERA Staff