ライカMマウントに対応したCarl ZeissレンズZMシリーズ。描写力に妥協をしない最新のレンズから、歴史的な銘玉の光学設計をそのまま復活させたレンズなど、純正ライカレンズとはまた違う個性と魅力のあるレンズを数多く展開している。そして 今回ご紹介するレンズは『Carl Zeiss Distagon T* 35mm F1.4 ZM』、意外に思われるかもしれないがZMシリーズとして初のF1.4という明るさを持つ最新のハイスピードレンズである。
DistagonといえばCarl Zeissの一眼レフ用広角レンズに多くみられるレトロフォーカスタイプと呼ばれる光学設計のレンズ名称だ。バックフォーカスが大きく取れる設計で、周辺光量も豊富。大口径広角レンズに適したレンズ構成ではあるが、一般的に対称型の広角レンズより歪曲収差が大きく、レンズ自体も重くなってしまうという特性がある。しかし手元に届いた本レンズを手にしてみると大きさと重さを感じないサイズに驚いた。そしてレンズをよく見てみると、前玉と後玉の表面が内側に凹んでいる個性的な形状をしているのが分かる。妥協を許さないCarl Zeissが満を持して登場させてきた本レンズ。はたしてその描写性能はいかなるのもなのか、早速写真を見てみよう。
レザーの持つ独特の光沢や質感表現が見事だ。シャドウのトーンも素晴らしくCarl Zeissという名にふさわしい描写性能である。
F5.6まで絞ればフォーカス面は驚くほどシャープな描写を見せてくれる。桜の細く伸びた枝と満開の花びらを余すところなく写し出してくれた。
少し絞り込むだけで四隅の甘さを一切感じさせない描写力だ。光と影のコントラストが絶妙なバランスだ。
ガラス越しに見つめる猫。絞り開放でアンダー気味にすると周辺減光が際立ち、写真にアクセントを与えてくれる。
絞り開放からフォーカス面はシャープに解像しているのが、絞り込んだときのような尖った印象はなく繊細な描写を見せる。大口径レンズの生み出すボケ味は写真に立体感を演出し、花の生き生きとした姿を見事に表現した。
モノクロームで見せる絞まった黒はさすがCarl Zeiss。高コントラストながら黒潰れする事なく、黒の中にある色と質感をしっかりと捉えている。
『Carl Zeiss Distagon T* 35mm F1.4 ZM』は素晴らしい描写力を誇るレンズであった。絞り開放からシャープに解像するものの、その描写は実に繊細。絞り込んでいけばそのフォーカス面の切れ味も増し、恐ろしいほどの鋭さを見せてくれる。 そして被写体を浮き立たせるような立体表現は独特なもので、スポットライトを浴びた舞台の演者のように、写真の中に物語を演出してくれる。性能という言葉だけでは語りきれない、Zeissレンズの魅力を存分に感じることのできる1本であった。
Photo by MAP CAMERA Staff