フォクトレンダーより新たなヴィンテージラインレンズの登場です。『ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』、ヴィンテージライン・ノクトンと同じコンセプトで作られた、美しい鏡胴デザインのレンズです。過去にLマウントで発売をしていた『ULTRON 35mm F1.7 Aspherical』の光学設計をリファインし、6群8枚から7群9枚の最新設計に変わっています。Lマウントのウルトロンもシャープな描写だったと記憶していますが、『ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』を使用してみて驚きました。絞り開放からフォーカス部はキレ味という言葉が似合うほどシャープな描写を見せてくれます。
初代の設計より65年の歳月が経った今に甦るウルトロン。ライカともツァイスとも違う、その独特の魅力を感じていただけたらと思います。
路上に同じ車種のロードバイクがシンメトリーに並んで停められていました。この写真もF1.7という明るさを持ちながら、全く隙を感じさせない描写力です。私のウルトロンのイメージはイカレックス用の50mmF1.8の印象が強く残っていて、絞っても被写界深度が浅くボケが強い描写が特徴のレンズでしたが、『ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』は最新設計の35mmということもあり、旧西ドイツ製ウルトロンとは違ったキャラクターのレンズです。
近年のミラーレス機の普及に合わせてでしょう、本レンズの最短撮影距離は0.5mになっています。レンジファインダー機だと0.7mからしか距離計が連動しませんから、この写真の時はライブビューを使用して撮影をしました。ジワリとすこし滲むようなボケ味はシャープなピント面と相まって独特の世界観を生み出してくれます。
ウルトロンの語源は『ウルトラ=極限』という意味から名付けられたと言われています。元は戦後1950年にシュナイダー・クセノンの設計も手がけたトロニエ博士により生み出されました。トロニエ博士はレンズ収差を良しとしなかった時代にあえて収差の出るレンズを設計するなど、独特の設計思想を持ち合わせていた方で、フォクトレンダーではウルトロンの他にノクトン、カラー・スコパー、カラー・ヘリア、アポ・ランターなど高性能かつ独創的なレンズの設計を手がけています。
そして現代に甦った今回の『Voigtlander ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』。その設計思想は踏襲しながらも、高画素・高解像化が進むデジタルカメラに合わせ、“極限”の名に恥じない描写性能のレンズに生まれ変わりました。
本レンズの描写は“シャープでキレイな”だけではなく、被写体を前に押し出すような独特の立体感のある写り味に感じます。それは極めて高い解像力を持ったフォーカス部と少しクセを感じる濃いボケ味の描写の差、そこにコントラストの高いこってりとした色合いが重なることで、写真に力強い印象を与えてくれます。
金属表現もいいですね、実に立体感のある描写です。重厚な扉の重さ、ひやりとした金属の質感が伝わってきそうな一枚です。
ビルの隙間から夕暮れの空を見上げてでの一枚。印象的な空の青色とF2.8ながら息を飲むような細密な描写力です。
『ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』はクラシカルな外観を持ちながら非常にシャープで力強い描写のレンズでした。今回の試写ではシルバークロームのレンズを使用したのですが、レンズの質感が非常にいいですね。物の厚みと言ったらいいでしょうか、真鍮製の鏡胴が何とも言えぬリッチな質量を生み出し、手に取ると『良い道具』という感じがひしひしと伝わってきます。ヘリコイドは多くのマニュアルレンズを作ってきたコシナならではの絶妙なトルク感で、ピント合わせがとても気持ちよく行えました。
各メーカーの個性が色濃く出るライカMマウントレンズですが、この『ULTRON 35mm F1.7 Vintage Line Aspherical VM』も他とは違う独特の魅力を感じる一本です。このレンズでしか写せない世界をあなたの手で表現してみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff