ライカの新しい可能性を広げる『Leica ズミルックス M35mm F1.4 ASPH. 11726/11727』が登場しました。なんといっても大きな進化は最短撮影距離40cmの実現。ライカが独自に開発したダブルカムユニットによりコンパクトなボディを維持しながらフォーカスリングの回転角を従来の約2倍となる176°まで回転させることが出来るようになりました。最短撮影距離40cmで撮影するには背面液晶モニターや外付け電子ビューファインダー「ビゾフレックス」、アプリ「Leica FOTOS」のライブビュー映像などが必要になりますが、「寄れる」ことでさらに様々な表現ができます。他にも従来モデルとの変更として組み込み式レンズフードの採用、絞り羽根を9枚から11枚に変更し、より美しいボケの表現が可能に。M型最新の高画素機『Leica M11』との組み合わせでどのような写りを見せてくれるのか、一日を通して撮影にいってきたのでぜひご覧ください。
冒頭から続けて寄りのカット。大きなガラス窓の額縁に開放絞りで最短撮影距離に合わせて撮りました。ピント面は驚くほど精細でボケ味はうっとりするほどリッチ。寄れることでズミルックスのボケ味の美しさを改めて認識できました。葉っぱのカットではF2まで絞って撮影しましたが開放絞りから芯のある写りで、少しの絞りを加えれば一層線が美しくなる。どちらにしろ素晴らしい写りです。
同じ目線で奥の獅子にピントを合わせ手前の獅子をボカしてみました。室内撮影でも最短撮影距離の短い新生ズミルックスならこんな表現も可能です。
積みあがったレンガとその向こうのコンクリートの床との境目を見事に表現しています。立体感が出る撮り方ではないと思っていただけあって、かなり衝撃的でした。濃いめに描写してしまいがちなレンガの赤茶色もとても自然で好感のもてる色味です。
このレンズを手にしたら、ぜひモノクロの世界でも見てほしいと思いました。白と黒の濃淡、周辺の減光、開放絞りの滲み。色があっては気付けない美しくも幻想的な世界がそこにはありました。絞ったときのそれぞれの輪郭が鮮鋭に描かれる画も体験してほしいです。
最短撮影距離が40cmになったことで35mmという焦点距離でもたっぷりのボケ感を演出できるようになりました。しかも最短撮影距離でもピントの解像感がとても素晴らしい。最短撮影距離で撮影するにはライブビューで撮影するか『ビゾフレックス2』を装着するか。今回は後者を装着して撮影に挑みました。拡大機能も使いやすく、しっかりと固定できるという意味でも『ビゾフレックス2』はぜひ付けておきたいアクセサリーです。
立ち位置を決める。ファインダーを覗きながらピントリングを回し像を合わせる。じっと構えながらそのタイミングが来るまで姿勢を変えずに待つ。シャッターを切る。カメラが今後どんな進化を遂げようとも、レンジファインダー機が瞬間を捉える最高のカメラであることに変わりはないような気がします。
何よりやはり楽しい。この一枚の写真を撮るための一連の動作にもはや愛おしささえ感じます。「写真を撮っている」その気持ちが満たされていくとても幸福な時間でした。
まるで被写体をスポットしたかのように強烈に浮かび上がるボケ味と立体感のある描写に一目で心を奪われました。風景だろうがポートレートであろうが、その被写体の魅力を引き出してくれるレンズだと思います。
逆光ではフリンジもフレアもかなり派手めに出ます。しかしシーンによっては出てほしいというユーザーも少なくないと思うので、個性と割り切ってこの写りも楽しんでもらいたいです。最高の光というのは、なにも完璧な逆光性能があってのものではないはずです。
水面の揺らぎやキラキラと反射する滲んだ光。そのどれもが柔く美しい描写で見惚れてしまいます。「ズミルックス」の写りがこの1枚には詰まっていると思います。
最後に夜空に浮かぶ三日月を撮ってみました。もっと滲むかと思っていた月は、想像以上のシャープな細い線で描かれていました。それでいて手前の樹々のボケ感はどこかライカの柔らかさを感じさせます。数年ぶりにリニューアルされたこのズミルックスは間違いなく正統な進化を遂げた一本でしょう。
新世代への進化を遂げたズミルックス
「寄れる」という選択肢が増えたことで撮影の表現の幅が圧倒的に広がりました。レンジファインダー機であることを制約としないこの進化はライカユーザーにとって非常に嬉しいことです。同時にファインダーを覗き撮影するスタイルの楽しさは色褪せない、むしろ自由度が増えたことで一層レンジファインダー機の良さというものを実感できた気がします。「使いやすさ」ということも嬉しいが、何よりもとてもよく「写る」ことに感動しました。そして世代を重ね、より鮮鋭な画を撮れるようになってきても「ズミルックス」としての個性は受け継がれたまま。すでに今の「ズミルックス」に満足しているユーザーでもぜひ手にとってほしいです。きっとまた、手離すことの出来ない大事な一本になってくれることでしょう。
Photo by MAP CAMERA Staff