【Carl Zeiss】”ZEISS” vol.3
『鳶(トビ)』を意味する『Milvus』
『木葉梟(コノハズク)』を意味する『Otus』
各社がオートフォーカスの速さと正確さを競う時代に生まれた重量・採算度外視のマニュアルフォーカスレンズたち。
鳥類の眼の如く鋭い描写性能を目指し生まれたレンズ群を自称ツァイス信者がご紹介。
全15本を3回に分けてレビューいたしますのでお気軽にご覧ください。
ボディは『Canon EOS R5』、『Canon マウントアダプター EF-EOS R』を併用して撮影に臨みました。
写真はこれまで同様JPEG撮って出しです。
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Milvus 18/2.8
苦手な15mm・21mmを乗り越え最後に待つのは18mm。
木々を見上げれば開放から隅々までシャープに、視線を下げればあるがままを克明に写し撮ることができました。
1枚目は絞って、2枚目は最短撮影距離で、3枚目はオーソドックスに。
これだけ広い画角にも関わらず立体感は失われることなく、なだらかなボケも非常に好印象。
本当は逆光で人物をシルエットにしたいところでしたが、生憎の天気でしたので割愛させていただきました。
近接撮影にも強くキノコも紫陽花も開放でこれだけ写すことが可能です。
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Milvus 35/2
あるがままを写すならこれ。目の前の光景をそのまま写す頼れる1本です。
開放からそつのない描写、少し線の太いボケ。
ドラマチックな画が欲しければ同じくMilvusの35mm F1.4、フットワーク重視ならこちら、ツァイスデビューにも間違いなくおすすめです。
究極の写りを目指したMilvus・Otusシリーズの中で最もスタンダードな写りをするレンズ、筆者が感じた印象です。
だからこそ撮影者の腕を試される1本、是非一度挑戦していただきたい安定のディスタゴンなのです。
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Otus 55/1.4
アポ・ディスタゴン。プラナーじゃないのかと残念がっていた筆者は頭を下げなくてはいけません。
埋め尽くす雲・生い茂る葉・積み重なった岩、自然のなかには人の手では生み出すことのできない質感で溢れている。
そんな当たり前の事実を再確認させられる写りに脱帽。
田圃を照らす西日は滲むことはなく、スムースかつ極薄のピントが目の前の情景を目で見るよりも美しく再現してくれています。
最後のOtusとなりましたが、どのOtusも本当に素晴らしく中判と同等かそれ以上の力を感じました。
ミラーレスカメラが主流になりつつありますが、ボディが軽くなったからこそ重いレンズを選択するということもできるのではないでしょうか。
究極の写りを自らの手で操る、Otusでしか味わうことのできない撮影体験がそこにあります。
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Milvus 85/1.4
ヤシカコンタックスマウントの85mm・プラナーを愛用する筆者にとって、本レンズは最後に残しておいたデザートのようなもの。
柔らかさのなかにある確かなピント、とろけるようなボケ、あれこれ思い出しながらvol.3の中でも最後に撮影を行いました。
さらに、Milvusシリーズは50mm F2・100mm F2のマクロプラナーを除くとそのほとんどがディスタゴン設計。
Otusの85mmを選ぼうにも価格が…という全プラナー愛好家の希望の星ともいえるのが『Milvus 1.4/85』なのです。
実際に使ってみるとこれぞプラナー!と言わんばかりの写り。
滑らかかつ自然なボケとピント面の柔らかくも高いシャープネスが共存、ファインダー上で被写体が浮き立つ様は何度見ても気持ちの良いものです。
開放では若干の滲みが見られるもののその切れ味が失われることはありません。間違いの無い1本。
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Milvus 100/2
足元の小宇宙にフォーカス、マクロレンズはいつも筆者を童心に帰らせてくれる有難い存在です。
マニュアルかつハーフマクロ、100mmときたら体が微妙に前後するだけでピントが外れてしまいます。
50mmのマクロプラナーも素晴らしかったですが、こちらも開放からシャープかつ繊細。
日常から離れた視線が凝り固まった脳内を柔らかくほぐしてくれる一本です。
前後のボケはいずれもソフトで自然、物撮りやポートレートにも活躍すること間違いなし。
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ここまで全3回、累計15本のOtus・Milvusレンズを紹介してきました。
vol.3については昨年9月から撮影は開始していたものの、あれよあれよという間に年は明け季節は梅雨に。
空気をも写すといわれるツァイスを試すには時期的にはピッタリ、と言い訳をしながら残る5本に挑みました。
予想はしていましたが撮影日のほとんどが曇りという悪条件。
フラットな光の中でどのようにレンズの魅力を伝えるか、悩みながら足を使って集めた作例たち。
これまで使用してきた『EOS-1D X MarkII』から『EOS R5』へボディを変更したこと。
撮影のリズムや体への負担、より高い解像度での記録などといった点でたくさんのメリットを感じることができました。
ただやっぱり光学ファインダーでレンズの光を味わいたい…というのが正直な思いです。
わざわざ大きく重いレンズをマウントし、自らの手でピント調節をするのには理由があります。
もっと便利なレンズはいくらでもあるでしょう。リーズナブルなレンズもあるはずです。
しかし、Milvus・Otusシリーズでしか写すことのできない世界が存在することもまた事実。
その唯一無二の写りを作例をご覧いただいた方に、少しでもお伝えすることができていれば幸いです。