1981年に発売され、今年惜しまれつつも生産が終了したレンズ。39年に渡り現行モデルという地位を守ってきた銘玉『Ai Nikkor 50mm F1.2S』をご紹介します。
80年代前半に発売されたカメラといえば、ニコンは「F3」キヤノンは「New F-1」と当時の主流はフィルムカメラ全盛期で電子化や多機能化が進み始めた時代です。その時代に投入された究極の「標準単焦点レンズ」ですから、メーカーとしても当時の最先端の技術の結晶として誕生した1本であることは間違いありません。
そんな期待を胸に「Z6II」と「マウントアダプターFTZ」を組み合わせ、撮影に出かけました。
撮りはじめは、どの様な特性のレンズなのか1つの被写体に向けて絞りを1弾づつ絞り込みボケの変化を確認します。
「F1.2~F2」ピントの芯も薄く、とろける様なボケ味が心地よい描写。
「F2.8~F4」現代のレンズのF1.4~F2クラスのイメージ。柔らかい描写ながら芯がある。
「F5.6以上」ここからはシャープさが際立つ描写にガラッと印象を変えます。
こちらはF2.8で撮影したウィンドウ越しの植物。ピント部の立体感はありますが、被写体の前景と背景はディテールも優しい表現になっています。ここが現代のレンズとの大きな違いだとおもいます。現代のレンズはピント部の前景と背景はしっかりとディテールを活かした表現が多いので、筆者のようなオールドレンズ好きにはたまらない表現力です。
メルセデスベンツのGクラスなどではレンズによる描写の特長が大きく現れる被写体です。敢えて手前の造形を際立たせるためにF2で撮影しました。ウィンカーまでは形状がしっかり確認できますが、ボンネットからは優しい表現になっています。
さて、開放で風景スナップを撮ってみましょう。筆者が高校生の頃に食べたクレープ屋さんがいまでも同じ場所で営業していました。そんな懐かしの風景をまるで当時の記憶を思い浮かべたかのような「ふわっ」とした写りです。電球の雰囲気が優しい気持ちにさせてくれます。
バイクの前面に光が当たっている状態でF2で撮影するとこのように光を捉えます。このレンズの面白いところは、F2.8から光の捉え方が大きく変わるところです。
F5.6まで絞り込むと、とてもシャープに。金属質をしっかりと表現しています。といっても現代のレンズでありがちな、「冷たさ」はなく温かみのある表現が好印象です。
基本的に筆者は街中でのスナップ撮影は「開放しか使わない」のですが、このレンズは積極的に絞り値を変えてその変化を愉しみたい。そう思えるレンズでした。
中古品を取り扱っているお店でなければ手に入れることのできないこの銘玉。昭和・平成・令和の元号を渡り歩いてきた大口径標準単焦点レンズをぜひこの機会に味わってみてはいかがでしょうか。
※本記事ではプロトタイプ機を使用しているため、製品版と異なる場合があります。
Photo by MAP CAMERA Staff