769: アポランターの解像力と魔力『Voigtlander APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical (Z-Mount)』
2022年06月23日
世界最古の光学メーカーとして知られるフォクトレンダー。260年以上続く長い歴史の中で、特に高性能なレンズのみ名乗ることが許された「APO-LANTHAR(アポランター)」という名称があります。それは現在のコシナが製造するフォクトレンダーブランドにも引き継がれており、近年ではフォクトレンダー史上最高性能を謳う『APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』が登場しました。そして今回ご紹介するのがその第二弾である準広角35mm、しかもニコンZマウント用にチューニングされた専用レンズ『Voigtlander APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical (Z-mount)』です。
今回の35mmはEマウント・VMマウントがすでに発売しており、言わばZマウントは後発となったわけですが、その力の入れようは流石コシナと思わせる完成度です。まず鏡筒や刻印の配色も専用に作られており、マウント部には電子接点も装備。撮影データ(Exif)をカメラ側に伝えるのはもちろん、ボディ内手ぶれ補正の最適化やピント拡大・ピーキング機能など純正レンズと同じように使用することが可能です。
マニュアルレンズ好きに是非ともオススメしたい本レンズ。まずはその描写力をお楽しみください。
R34GT-RのRB26DETTとR35GT-Rのステアリングから始まった今回のKasyapa。筆者が車・バイク好きというのもありますが、工場写真にも通ずる金属・歯車・パイプが織りなす“機械美”は被写体として美しく、男心をくすぐるロマンがあると思っています。
冒頭から全て絞り開放F2で撮影したカットなのですが、解像感だけでなくリアルな質感と立体感を伴った描写だなと感じます。フォクトレンダー最高峰の準広角レンズ、その謳い文句は伊達ではありません。
ボディに使用した『Nikon Z7 II』との組み合わせは階調表現が実に豊か。モノクロでも相性が良いだろうと思い、階段を見上げたこのカットは色のない写真に仕上げました。
昭和初期に建てられた歴史ある建物。手すりのある壁の素材が途中から変わっているのですが、その描き分けも見事です。
高解像力のレンズらしく、金属やガラスなど硬質で艶のある被写体は素晴らしい写りをしてくれます。アポランター50mmと同様に開放F2では周辺光量が少し落ちますが、これも本レンズの味の一つ。周囲が少し暗くなり写真の中でメインとなる被写体をフワッと浮かび上がらせてくれます。
新緑の葉脈もくっきりと写す描写力。コントラストも高く、光に照らされる緑を美しく表現してくれました。本レンズにはF2、F2.8、F5.6、F16で円形絞りになる特殊形状を採用しており、逆光で星型のような光芒を出す場合はそれらの絞り値を外して撮る工夫も必要です。
こちらはF5.6で撮影したカット。古い造船ドック跡を捉えた一枚です。重厚な石段やマス目状の石畳など、こんなにも緻密に写し出していることに驚きました。
アポランターの解像力と魔力。
『Nikon NIKKOR Z 35mm F1.8 S』という純正レンズがある中、本レンズの魅力は何かと聞かれたら、高画素センサーを凌駕する圧倒的な解像力。そして周辺減光やボケ味が生み出す独特の味と言えばいいでしょうか。高性能を求めただけでは到達できない描写の魅力、いや、魔力という雰囲気に近いような個性を持ち合わせているレンズです。ピントが合焦する瞬間フワッと浮かび上がる立体的な被写体に、ファインダーを覗きながら鳥肌が立つような感覚を覚える『Voigtlander APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical (Z-mount)』。前回アポランター50mm・Zマウントも撮影をしたのですが、画角は違えどこのアポランター35mmも同じ印象を受けました。
実用的な観点で言えば35mm F2なので被写界深度も浅すぎることなく、ピント合わせもしやすいレンズ。より深いボケ味を楽しむのであれば50mmかもしれませんが、35mmは初めてマニュアルフォーカスレンズを持つ方にも使いやすいかもしれません。
アポランターが生み出すこの表現力。ぜひZマウントで体感してください。
Photo by MAP CAMERA Staff