ウェッツラーにあったライツ社の工場で1955年から1963年まで製造された『Leica Summaron M28mm F5.6』。目盛りに赤い塗料を用いたことから「赤ズマロン」の名で親しまれた同名のレンズをベースにした、復刻版ともいえるレンズを今回は使用しました。旧モデルのコンパクトな構造と描写力を受け継いでおり、デジタル主流の現代において他とは一線を画す個性のある描写が魅力の本レンズを、『SIGMA fp』に『Leica M-Adapter M-SL』にて装着し撮影して参りました。
天を覆う格子状のドーム。この下では日差しがこれでもかと降り注いでいたので効果のほどはどうなのだろうかと少し首をかしげましたが、カメラを通したときにそのシルエット越しに見上げる空が面白く、腑に落ちたような気持になってシャッターを切りました。
レンガに書かれた「STOP」。ひび割れた白文字の風合いが面白く思いレンズを向けましたが、影も相まって空気感をそのまま切り撮ることが出来ました。
ここからアスペクト比21:9の写真をいくつか。この比率は広角レンズと相性がいいように感じます。横に長い画角は見えない縦の空間に何があるのかを想像させます。その膨らんだイメージが写真を見て下さった方の中でストーリーを構築するのです。
窓に写りこんだビルが一番カッコいい位置に来るように狙ってみました。十字の窓枠がカーソルのように見えて、さながらベストショットを狙うスナイパーのようです。そういえば、写真を撮ることも銃を撃つことも英語では「shot」になるのも、このような事から来ているのかもしれません。
描写もさることながら、『Leica Summaron M28mm F5.6』の魅力はやはりこのレンズにしかとることの出来ない味わいがある事でしょう。周辺減光が自然なコントラストをもたらし、フィルムカメラのような哀愁をまとった一枚が産み出されます。理屈ではなく、気持ちで撮った写真には感情が籠るのです。
小柄なボディに、小柄なレンズ。過去と現代、時を超えて出会ったこの組み合わせのルックスはため息が出るほどに素晴らしいもので驚きました。「開放F値5.6」は現代のレンズに比べれば暗く感じますが、ひとたびその写りを知ってしまえば『Leica Summaron M28mm F5.6』の虜になることは間違いありません。かつて長きにわたり好事家達に愛されてきた銘玉を、『SIGMA fp』というミラーレス時代の最新機に取り付ける。歴史に彩られたその写りを現世のフィーリングに落とし込むことで、写真表現の新しいステップに進むことが出来るのだと感じました。
Photo by MAP CAMERA Staff