ライカ伝説の銘玉「ズミクロン M35mm F2(第一世代)」を素材まで研究し復刻させたことで有名になった中国の投資家の周氏。その後、軍用ライカの「エルカン50mm F2」等も復刻させ、希少レンズの写りをより身近に楽しめるようにしてくれています。そして今回、また新たな復刻レンズが登場しました。『M NOCTILUCENT 50mm F1.2 ASPH.』は、1996年に登場した「ノクティルックス M50mm F1.2(非球面)」を再現したモデル。ライカからも同レンズの復刻モデル「ノクティルックス M50mm F1.2 ASPH. ブラックアルマイト」が発売されており、復刻モデル対決の様相も見えてきた興味深い商品です。
ライカの復刻版と比べ約1/3のお値段で手に入る上、メーカーの資料によると当時の高屈折ガラスの再現や手作業での研磨など製造方法にもこだわりを感じる製品に仕上がっています。さらに見逃せないのが「光学的特性はオリジナルの個性を維持しつつ、わずかに性能を向上させ、より使いやすくなっている」というコメント。使い勝手も価格面でもより身近になった、ノクティルックス M50mm F1.2の復刻レンズをクラシックレンズがよく似合う『Nikon Z f』との組み合わせで撮影してきました。ぜひご覧ください。
まずはF1.2のボケ具合を見たくて開放でシャッターを切ると、淡い色の花の輪郭に沿ってフレアが発生しました。過去に一度ライカの復刻版を試したことがあったのですが、その時の印象と比べるとフレアの出方は少し控えめ。もっと盛大に滲むと思っていたので、少し拍子抜けだった反面、程良い滲みは作品のアクセントとしての使いやすさも感じます。ボケはさすがの柔らかさと言ったところでしょうか。
梅雨を通り越してもう夏が訪れたのではと感じる好天の6月。強い日差しの下でのピント合わせでは見やすいEVFファインダーが重宝します。F1.2でのピント面は想像通りの極薄でしたが、拡大してもクリアなファインダーのおかげでとてもスムーズに操作できました。
少し絞るだけでボケの出方が大きく変わる印象です。背景に置いた濃い青色の紫陽花はまるで後から色を塗り足したかのようです。オールドレンズらしい独特なボケが楽しめます。
ピント面のシャープさはさすがライカ(の復刻ですけど)という感じです。派手さは抑えつつも色のりは良く、布の質感もしっかり捉える透明感の高さは、最新レンズと見間違うほどで、オリジナルレンズの時代を超えた性能の高さも感じ取れました。
F5.6まで絞ると四隅まで細かく描いてくれました。せっかくの大口径レンズを絞って撮るのは少々勿体無い気もしますが、画に様々な変化を見せてくれる絞り操作はやはり楽しいものです。
筆者がオールドライカレンズに唯一持つ不満が近接撮影が出来ないというもの。しかしこれはヘリコイド機能付きアダプターを用いることで解消されます。最短撮影距離1mの本レンズもアダプターを使用することで手元まで寄せることができました。結果が淡いフレアを纏ったこの柔らかな描写です。マクロレンズとはまた違った写りは病みつきになりそうです。
アンティークな品を集めた資料館に訪れました。薄暗い館内では開放F1.2の明るさは大きな魅力です。そして「Z f」に搭載された強力な手ブレ補正機能との相乗効果でストロボも高感度設定も不要。古いガラスの透明感を見たままのクリア感で切り取ります。
天窓から差し込む光の影響で若干白飛び気味に書き出されたカット。本来なら露出を補正して再撮影しても良いシーンですが、雰囲気が気に入りました。柔らかい描写を見せるレンズは白飛びもソフトに描いてくれました。
たくさんのアイテムが並べられた作業机。横の窓からは明るい日差しが差し込みます。先程の白飛びが頭をよぎりましたが、このシーンでは明暗差を苦にしないバランスの良いトーンで描いてくれました。小さなアイテムもしっかり収めようと少し絞ったことが功を奏したのかもしれません。撮る度に様々な表情を見せてくれるオールドレンズはフィルムカメラ時代に設計されたものでも、枚数を気にせずシャッターが切れるデジタルカメラに向いているように思えます。
時折見せるオールドレンズテイストの描写でしたが、逆光のシーンではより強烈に現れました。盛大なゴーストに水面のフレア、周辺減光等、描写の甘さのオンパレードの画からはどこか懐かしさも感じさせてくれました。
オリジナルレンズを試したことがないのでオリジナルとの描写の違いは分かりませんが、本レンズを純粋にオールドレンズとして見れば、オールドレンズ特有の描写の甘さを抑えつつ、所々のシーンで抑えきれなかった甘さがフレアや独特なボケとして顔を覗かせるクセの楽しいレンズでした。絞れば甘さは改善しますから、使用者の匙加減で如何様にも生かせる面白さがあります。シャープな描写の最新レンズも良いですが、特徴ある描写のレンズも試してみると新しい発見があってより写真が楽しくなることでしょう。
ライカレンズの復刻レンズですからライカボディに似合うのは当たり前として、ニコンボディにここまで似合うとは正直驚きでした。ファインダーの見易さも含め使い勝手も最高です。
また「NOCTILUCENT」には外装仕上げの異なる4種類のモデルがラインナップされています。定番の真鍮ブラックペイントの他にもシルバークロームやチタンなど見た目が鮮やかなモデルや、より軽量化されたアルミ鏡筒のブラックアルマイトバージョンが用意されています。
今回はその中からアルミ鏡筒のブラックアルマイトを使用しました。真鍮モデルの重さが550gに対しアルミモデルは440gと約2割程軽い上、価格も少し抑えられています。いずれも台数限定での販売ですから、希望のモデルがある方は早めのお求めをおすすめします。